ピザ界の定説「55〜59%」の謎
ネットでナポリピッツァのレシピを調べると、必ずと言っていいほど「加水率は55〜59%」という数字にぶつかります。Cookalcの計算ツールでも、最初は疑いなくこの数字を信じ込んでいました。
しかし、本家「AVPN(真のナポリピッツァ協会)」の公式規定を取り寄せてみると、驚くべき事実が判明します。「加水率」という項目そのものが、どこにも存在しなかったのです。
AVPN公式規定の「逆転レシピ」
規定書に書かれているのは、粉を主役にしたベーカーズパーセントではなく、「水1リットルに対して粉を何グラム入れるか」という逆のアプローチでした。
AVPN(真のナポリピッツァ協会) 国際規定 日本語版 より
バケツにまず水を全部入れ、そこに粉を足して濃さを調整していく、職人が実際に手を動かす順番そのままのレシピです。
これを私たちが普段使う加水率に割り算で逆算すると、衝撃の数字が浮かび上がります。
粉1,800gのとき: 1000 ÷ 1800 = 約55.6%
粉1,600gのとき: 1000 ÷ 1600 = 約62.5%
なんと、上限は定説の59%を大きく超える「62.5%」でした。粉500gで計算すると、水の大さじ2杯分(約30ml)もの差が生まれます。
実は誰も間違っていなかった(旧版の真実)
では、「55〜59%」は誰かの勘違いだったのでしょうか。実はこれ、粉の量が「1,700〜1,800g」だった古い版の規定を正しく計算した数値でした。
1000 ÷ 1700 = 58.8%(約59%)となり、見事に一致します。
レシピの数字にも「版」があり、更新を追いかけないと静かに古くなっていくというわけです。
粉のスペックと加水率の混同
規定書には「吸収 55-62%」という数字も登場しますが、これは「粉自体がどれくらい水を吸えるか」を示すファリノグラフのスペック値であって、レシピの加水率ではありません。
スポンジの吸水性能と、実際に垂らす水の量が違うのと同じです。
結局、水を何%入れればいいのか
規定の範囲(55.6〜62.5%)ならどこでも同じように焼けるわけではありません。
適正値は粉の力で変わる: 規定が前提とする強い粉(W値250〜320)を使わないと、上限近くの水を入れた際に生地がだれてしまいます。
下限からのスタートが鉄則: 数字は目標値ではありません。手持ちの粉で扱える下限から始め、慣れてきたら少しずつ上げていくのが一番の近道です。
Cookalcのナポリピッツァ生地計算シミュレーターは、この最新の規定値にアップデート済みです。
ご自身の配合が規定に収まっているか、ぜひツールでチェックしてみてください。
